【どうでもいい話】
国道1号を東に進んでいると清水インターのちょっと先で「富士」と書かれた段ボールを持って歩いている二人組がいる。
経験からすぐにヒッチハイカーだとわかるので声をかけてみる。
富士川楽座に行きたいらしいので乗せていくことにする。
一人は高知を出発した青年。絵が好きらしく、色紙に絵と言葉を書いてそれを売り、それだけを頼りに旅を始めたらしい。以降「絵描き君」とする。
もう一人は北海道出身で、福岡に旅行に出かけたところで荷物をすべてひったくられてなすすべもなくなり、歩いて北海道に向かっているという。以降「絶望君」とする。
そんな二人は広島で出会い、絶望君がヒッチハイクの方法を絵描き君に尋ねたのがきっかけで一緒に行動するようになったらしい。心情的に絵描き君が絶望君を放置できなくて北海道まで見送ることにしたらしい。
絵描き君は放浪旅を覚悟で出発しているので寝袋とかもあるのだが、絶望君はすべて持ち物を取られてしまっただけあって何もない。野宿の際も絵描き君の雨具などを借りて寒さに耐えているとのこと。
最初は旅人だと思って富士山きれいでしょーなんて気軽に話していたのですが、絶望君があまりにも絶望しているので車内は暗い雰囲気に。
楽しみながらいけば?と提案したんですが、そんな状況ではなくて楽しむ気もなく、明日死んでも構わないと。
たしかに旅は散々してきましたが、あくまでも自発的な旅でして、絶望の中北海道へ向かったことはありませんが・・・。
絶望君は家族もいないらしい。北海道に帰れたとしても生活ができるのかとても心配ですが家はあるとのこと。家と言っても一軒家ならいいけどアパートなら捜索願を出されているかもしれない状況ではないだろうか。
あまりにも絶望的なので詳しくは聞かないようにした。
絵描き君は何とか絵を売って彼の帰宅代を稼ぎたいらしいが全然売れないそうである。
私が若いころだったらヒッチハイクで二日もあれば北海道へ着く自信があったのですが、今は全然乗せてくれないそうで。
乗せてくれないとどんどん旅人は汚くなっていき、余計乗せてもらえなくなるデフレスパイラルのような状況になります。
高速道路でのヒッチハイクはかなり苦手なようで、ずっと国道を歩いている感じ。静岡県に入って4日もたってまだ清水という速度でとても心配です。
このまま進めば翌日か翌々日には箱根があり、疲れ切った彼らの体では昼の間に歩きぬくのはかなり厳しいはず。
30分ほど走って富士川楽座へ。二日も食べていないというのでごはんでもごちそうすると言ったのですが遠慮される。ならばその絵を一枚買うから見せなさいということで、素敵な言葉とかわいいお地蔵様の絵が描いてある色紙を3000円で買う。
とりあえずこのお金でご飯を食べなさいと言ったのですが、すこしでもフェリー代に回したいとのこと。
これ以上何もできないので頑張るように伝えて別れる。
個人的には絶望君を放置して、絵描き君は旅を続けるべきだと思った。
絶望君は行政に託さなければ、彼らのペースではこれから東北は厳しすぎる。
絶望君は絶望過ぎて何も考えられない状況のようで、本人の意思がなければ絵描き君もどうしようもないという感じ。
でも見捨てるわけにはいかないので無駄にスローペースで北上しているだけになっている。
これから東北に向かうのであれば-15℃仕様の寝袋は必須だし、寝る場所もどんどんなくなっていくでしょう。
気力がなくなると人間は思考力がなくなり、ただ前に進むしかできない、何か戦争中の話のような、死刑囚のような、やるせなさが残った旅人(?)たちでした。
